腫瘍科
近年獣医療の発展により、腫瘍への治療の選択肢は増加し、完治の望める例も増加してきました。
ただそのためには腫瘍の早期発見が重要になります。
残念なことに、診察時にはすでに末期のがんということもあります。
その際には積極的な治療よりも、動物の苦痛を減らすための緩和的な治療も大事な治療になります。
動物それぞれで状況は異なり最適な治療は異なります。
飼い主様の意向をくみとり、納得いくまで相談し、動物に最適な治療を心掛けています。
多くの腫瘍症例の経験から、必要な情報を提供しますのでご安心ください。
エコー(超音波)
麻酔が不必要で院内ですぐに検査を行えます。
主に腹部の検査に用いられます。
最新機種のエコーを導入しておりますので、腫瘍の早期発見に優れています。
消化管腫瘍
嘔吐・下痢が続いていたダックスフンドです。エコー検査により消化器症状の原因が腫瘍であることが分かりました。
肺腫瘍(組織球性肉腫)
眼の腫れを気にして来院されました。精査のためエコー検査をすると、肝臓や脾臓の腫瘤も発見され、全身への腫瘍の転移が疑われました。
レントゲン
主に胸部や骨の腫瘍の検出に優れています。
心臓腫瘍(心基底部腫瘍)
レントゲンとエコーにより心基底部腫瘍(ケモデクトーマ)が疑われました。分子標的薬により治療し、長期間腫瘍の増大が抑制されました。
肺腫瘍(肺腺癌)
咳の精査のため検査をすると肺に孤立性の腫瘍が発見されました。転移は認められなかったので、手術により摘出し、その後再発は認められておりません。
診断
手術が必要になる腫瘍があれば、抗がん剤が必要になる腫瘍もあります。
腫瘍の種類により治療方針が全く変わってくるので、重要な検査になります。
不必要に数多くの検査を行い高額な費用が掛かり、十分な治療が行えなければ元も子もありません。
動物に負担の少ない検査を選択し、不必要な検査は行わないようにしております。
コア生検
切除生検
FNA
主にFNA、コア生検、切除生検などがあります。
それぞれの長所・短所を考慮し、症例に適した生検の方法を選択します。
治療
腫瘍の治療には抗がん剤だけでなく多くの選択肢があります。
その子の状況に応じて治療の選択肢を提案しますので、納得のいく最適な治療を相談しましょう。
手術
腫瘍が限局している場合には、根治を目指す場合に最も効果的であることが多いです。
転移が発生してることもあるので、その他の治療の併用も含め慎重に判断します。
手術前
眼瞼腫瘤を手術により摘出しました。
病理検査の結果良性であり、術後再発は認められておりません。
毛が生えれば術創は気にならなくなります。
手術後
抗がん剤
リンパ腫のように全身に播種している癌や、手術後に転移を抑制するために行われます。
抗がん剤と言うと副作用が強く出て、毛が抜けて吐き気が強く出るというイメージを持っている方が多いと思います。
もちろんそのようなケースもありますが、副作用がほとんどなくQOLを維持したまま長く生活している子もたくさんいます。
抗がん剤治療時に心掛けていることとして、健康な時と同じように元気に、少しでも長く生活できることを目標としています。
副作用の発生を減らせるよう、薬の種類や用量をその症例に応じて慎重に判断します。
抗がん剤投与前
全身に播種した組織球性肉腫のゴールデンレトリーバーです。
抗がん剤による治療で、腫瘍は一時的に一部は消失し、症状も改善が認められました。
完治は困難ですが、つらい症状を抑えつつ自宅で家族の方と過ごす事が出来ました。
抗がん剤投与後
放射線
手術困難な部位、大きさの腫瘍に対して選択されることがあります。
その他
上記以外にも分子標的薬、凍結外科、温熱療法等の選択肢があります。
リンパ腫
リンパ腫とは、免疫細胞であるリンパ球が腫瘍化したものです。
犬猫ともに、比較的多く見られる腫瘍の一つです。
分類
悪性度の高い低分化型と、緩徐な経過をたどる高分化型リンパ腫に分類され、治療方法も異なってくるので注意が必要です。
その他にも、発生部位やTB分類により分類することで、予後や治療方針を検討します。
症状
病変の出現する部位で異なります。
多中心型リンパ腫であれば、首の下や膝の裏が腫れていると来院されることが多いです。
消化器型リンパ腫であれば、食欲不振や下痢、嘔吐などが見られます。
頸部のリンパ節が著しく腫れています。多中心型リンパ腫だと全身のリンパ節が腫れていることが多いです。
多中心型リンパ腫
消化器型リンパ腫
猫の消化器型リンパ腫です。慢性的な消化器症状の精査で見つかりました。
診断
血液検査や画像検査により全身状態、転移などを確認します。
低分化型リンパ腫であれば、FNA(針穿刺吸引生検)(細胞診)で診断がつくことが多いです。
FNAであれば麻酔は不要で検査できます。
FNA(針穿刺吸引生検)
細胞診
リンパ腫は細胞診で診断がつくことが多いです。FNAは麻酔の必要がなく負担のない検査です。
治療
リンパ腫は「血液のがん」であり全身に播種していることが多いので、基本的には抗がん剤で治療します。
犬の低分化型リンパ腫では、無治療では生存期間が1ヶ月ですが、抗がん剤により中央生存期間1年と報告されています。
抗がん剤の使用によりリンパ腫の症状を緩和し、いつも通りの生活を維持したまま1年近く過ごせる可能性があります。
抗がん剤というと副作用が心配だと思います。
副作用がほとんど出ない子もいれば、副作用が出てしまう子もいます。
抗がん剤での治療目標は、極力副作用を抑えつつ、いつも通りの生活を少しでも長く過ごせることだと思います。
当院では、多くの腫瘍症例の治療経験がありますので、その子その子に合った治療を提案していきます。
そのうえで飼い主さまの希望を聞きつつ、治療方針を決定できればと思います。
治療前(消化器型リンパ腫)
抗がん剤治療後
腸管に発生したリンパ腫の猫です。抗がん剤治療により症状が改善し、腫瘍も縮小しました。
膀胱腫瘍
膀胱に発生する腫瘍はいくつか種類がありますが、ほとんどが移行上皮癌です。
ここでは移行上皮癌について説明します。
症状
高齢で繰り返す血尿や、排尿の際にしぶりがある場合は注意が必要です。
進行すると、排尿困難や腎不全になる可能性があります。
診断
エコー検査では、膀胱の腫瘍を確認します。
しかし、良性のポリープの可能性もあるので、悪性腫瘍との鑑別が必要です。
膀胱腫瘍ではFNAは禁忌なので、カテーテル生検をします(無麻酔で可能です)。
採取した細胞を、細胞診と遺伝子検査(BRAF)を組み合わせることでかなり正確な診断を行えます。
膀胱内に腫瘍が確認されます。
エコー検査で腫瘍を確認し、膀胱炎などの除外は行えます。正確な評価のために、膀胱を拡張させます。
膀胱移行上皮癌
治療
手術、抗がん剤、COX阻害薬が選択しとなります。
しかし移行上皮癌は転移性が非常に高く、手術後に再発率が高いので抗がん剤などで内科的に治療されることが多いです。
内科的な治療の場合、抗がん剤やCOX阻害薬を組み合わせて、腫瘍の増大を抑制するのが目標です。
内科的な治療により、排尿困難になっている子が、腫瘍の縮小により尿を出せるようになることもあります。
組織球性肉腫
悪性度が高く、全身性に発生する可能性のある腫瘍です。
症状
発生する部位により様々な症状が発生します。
初期の肺や脾臓、肝臓に発生したものでは、症状がなく偶発的に見つかることもあります。
診断
FNA(針穿刺吸引生検)により採取した細胞を、細胞診を行います。
FNAが困難な部位や、診断がつかない場合は、切除生検なども検討します。
組織球性肉腫は全身に播種していることも多いので、転移の有無を確認します。
治療
全身に播種していることが多いので、基本的には抗がん剤が選択されます。
予後の悪い腫瘍ではありますが、抗がん剤により症状を緩和させつつ、腫瘍の進行の抑制が期待できます。
抗がん剤投与前
全身に播種した組織球性肉腫のゴールデンレトリーバーです。
抗がん剤による治療で、腫瘍は一時的に一部は消失し、症状も改善が認められました。
完治は困難ですが、つらい症状を抑えつつ自宅で家族の方と過ごす事が出来ました。
抗がん剤投与後
大動脈小体腫瘍(ケモデクトーマ)
心基底部(心臓の根元)に発生する腫瘍です。
症状
発咳や呼吸促迫が見られます。
診断
エコー検査やレントゲン検査により心基底部腫瘍を確認します。
可能な場合は心嚢水やFNAにより細胞診を行います。
発生部位が心臓近くのため、他の腫瘍との鑑別が困難で、生前診断が難しい場合も多々あります。
腫瘍の増大により、循環不全を引き起こします。心嚢水の貯留により、心タンポナーデが起きることもあります。
大動脈小体腫瘍(ケモデクトーマ)
治療
腫瘍の増大抑制のために分子標的薬の投与が報告されています。
分子標的薬の使用により、症状が緩和され、腫瘍の増大が抑制されている印象はあります。
心嚢水の貯留により心タンポナーデが起きてる場合は、心嚢水の抜去や心膜切除を考慮します。