整形・神経外科
前十字靭帯断裂
膝関節を制御する重要な靭帯である前十字靭帯の断裂した状態です。
人でもスポーツ選手でよく見られます。
前十字靭帯断裂
原因
肥満や膝蓋骨脱臼を併発している場合に断裂することが多いです。
その他にも免疫疾患や腫瘍等も原因になることがあります。
犬での発生が多く、猫ではまれです。
症状
患肢に強い痛みが生じ、跛行が見られます。
部分断裂の場合は、間欠的な跛行が見られることもあるので注意が必要です。
膝関節の不安定性から、関節炎が進行し慢性的に痛みが生じることもあります。
診断
触診では、Tibial compression、Drawer testといった方法で膝関節の緩みを触知します。
レントゲン検査では、脛骨の前方変位やfat pad signが見られることもあります。
エコー検査では、靭帯の状況を観察します。
その他にも関節液検査による他疾患の鑑別や、関節鏡や手術時に靭帯を直接観察する方法もあります。
正常
前十字靭帯断裂
脛骨の前方変位
治療
靭帯の断裂が原因による症状なので、基本的には手術による整復が勧められています。
靭帯が断裂した状態を放置すると、逆側の足に負荷がかかり、逆側も高確率で断裂すると言われています。
手術法はラテラルスーチャーという方法で行われることが多いです。
大型犬の場合にはTPLOを適応します。
不安定になっている膝関節を、固定糸により安定化させます。
ラテラルスーチャー
TPLO
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨(膝のお皿)が内や外側に脱臼した状態です。
小型犬で先天的な発生が多く、内方脱臼が見られることが多いです。
正常
内方脱臼
正常
内方脱臼
膝蓋骨内方脱臼
正常
膝蓋骨内方脱臼
原因
先天的に滑車溝(膝のお皿が収まる溝)が浅いことにより、脱臼が引き起こされることが多いです。
その他にも、外傷が原因で発症することもあります。
犬での発生が多く、猫ではまれです。
症状
膝蓋骨が脱臼する際の痛みにより、痛がることや間欠的な跛行が見られることがあります。
慢性化することで前十字靭帯の断裂や関節炎を併発し、常時びっこを引くこともあります。
診断
触診により、膝蓋骨の脱臼を触知出来ます。
慢性化すると骨の変形も見られることがるので、レントゲン検査も行います。
重症度は4段階のグレードに分類されます。
ただグレードが軽くても痛みを強く伴う症例もいるので、その子の症状に応じて治療を検討する必要があります。
グレード分類(重症度)
Grade1:自然に膝蓋骨は脱臼しないが、徒手により脱臼が引き起こされる。
Grade2:自然に膝蓋骨が脱臼したり、元の位置に戻ったりを繰り返している。
Grade3:常時膝蓋骨が脱臼した状態だが、徒手により正常な位置に戻すことができる。
Grade4:常時膝蓋骨が脱臼した状態で、徒手でも正常な位置に戻すことができない。
治療
無症状では基本的に経過観察をすることが多いです。
しかし、膝蓋骨脱臼が放置されると、グレードの重症度が高くなり骨変形が引き起こされることや、前十字靭帯断裂、関節炎を併発すすこともあるので、教科書的には手術が推奨されています。
手術の際にはその子の状況に応じて、以下の方法を組み合わせます。
滑車溝造溝、関節包縫縮、脛骨内旋制御、内側広筋リリース、脛骨粗面転移などを実施します。
膝蓋骨の収まる滑車溝が浅いため膝蓋骨が脱臼しやすいので、溝を削ることにより深くします。
滑車溝造溝術
骨折
原因
落下や交通事故により骨折が起きることが多いです。
症状
急性の痛みや跛行が見られます。
骨折である場合、患部の腫脹が見られることも多いです。
診断
急性の跛行があり、触診で患部の顕著な腫脹が見られる場合は骨折が鑑別診断に挙げられます。
骨折が疑われる場合は、レントゲン検査により診断します。
治療
骨折といっても、横骨折や斜骨折、複雑骨折等の多くの型があり、それぞれに応じて必要な治療法を検討する必要があります。
当院ではプレーティングやピンニング、サークラージワイヤー等を組み合わせ、その子に応じて最適な治療法を選択します。
当院で対応の難しい部位の骨折は二次施設に紹介させて頂きます。
橈尺骨折(遠位部短斜骨折)
手術前
手術後
プレート抜去後
脛骨遠位成長板骨折(Salter-HarrisⅡ型)
手術前
手術中
大腿骨骨頸部骨折(Salter-HarrisⅡ型)
手術前
手術後
ピン抜去後
中足骨骨折
手術前
手術後
下顎骨折
交通事故により骨折した症例です。
手術前
手術後
不良肉芽をデブリートし、骨折部分を整復しました。
大腿骨頭壊死症(レッグ・カルベ・ペルテス)
大腿骨の骨頭部分が壊死することにより、強い痛みが生じます。
人でも発症することがあり、手術が行われます。
骨頭壊死
正常
大腿骨頭壊死症
原因
原因ははっきり分かっていないですが、大腿骨頭への血流が不足することにより発症すると考えられています。
大腿骨頭壊死症
骨頭壊死の進行
進行
骨頭の広範囲の壊死が確認されます。
切除した骨頭
症状
骨頭が壊死することにより強い痛みが生じ、跛行が見られます。
若齢の小型犬で多く見られ、特にトイプードルで好発します。
若いトイプードルの子で後肢のびっこを引く場合は注意が必要です。
診断
触診では、後肢伸展時に痛みを生じます。
痛みが慢性化していると、痛みにより負重ができなく、患肢の顕著な筋肉量減少も見られます。
レントゲン検査では、骨頭の不整や骨頸部の肥厚が見られます。
発症初期だとレントゲン検査で異常が見られないこともあるので、繰り返し検査が必要になることもあります。
エコー検査では、初期の病変でもレントゲンより早期に骨頭の不整をとらえられることもあります。
治療
骨頭が壊死している状態ですので、手術が適応になります。
手術は壊死部分の骨頭を切除する、骨頭切除により治療されることが多いです。
切除後は骨頭が無くなりますが、周囲の筋肉が関節を固定し偽関節と言われる状態になります。
まだ一般的ではないですが、股関節を人工関節に置き換える、股関節全置換術という方法もあります。
骨頭切除後
手術後
椎間板ヘルニア
椎間板物質の逸脱により腰や首に痛みを伴い、後肢の麻痺が見られることも多々あります。
原因
椎間板物質が逸脱し、神経を圧迫することで痛みや麻痺を生じます。
軟骨異栄養犬種と言われるダックスフンドなどで多く見られます。
椎間板物質の逸脱による神経の圧迫
症状
腰や首の痛みにより急にキャンと鳴いて痛がります。
腰部に病変があり麻痺が生じている場合は、後肢をふらつきながら歩いたり、後肢が全く動かなくなり引きづりながら歩きます。
頸部に病変があり麻痺を生じている場合は、前肢のみ、または四肢ともにふらつきが見られたり、起立困難になります。
診断
神経学的検査により病変部位の絞り込みを行います。麻酔は不要な検査になります。
レントゲン検査により病変部位の特定は困難ですが、疑わしい部位を発見したり、他疾患との鑑別を行います。
確定診断にはMRI検査またはCT検査が必要になります。MRIやCT検査の場合、動物では麻酔下で行うのが一般的です。
飼い主さまと相談しMRI検査を希望される場合は、MRIを持つ適切な施設に紹介させて頂きます。
腰部椎間板ヘルニアグレード分類(重症度)
腰部椎間板ヘルニアが見られることが多いので、腰部のグレード分類を紹介します。
GradeⅠ:麻痺はありませんが、腰の痛みがある状態。
GradeⅡ:起立歩行は可能ですが、不全麻痺がある状態。
GradeⅢ:起立歩行不能で、不全麻痺がある状態。
GradeⅣ:両後肢の完全麻痺の状態。
GradeⅤ:完全麻痺で後肢の深部痛覚も消失している。
治療
投薬や絶対安静により症状が良くなることが多いです。
ただGradeⅣ~Ⅴの場合は、手術の方が成績が良いと報告されているので一般的には手術が推奨されています。
Gradeが低くても痛みが強い場合や麻痺が改善しない場合は手術も選択肢になります。
手術後はリハビリの仕方をしっかりお伝えし、病院でもサポートしますのでご安心ください。
摘出した多量の椎間板物質