腫瘍外科

腫瘍が認められた場合、治療の3本柱は外科(手術)、抗がん剤、放射線になります。
その中でも一般的に多く行われるのが外科と抗がん剤です。
治療方法の選択には腫瘍の診断や、進行度を把握することが非常に重要となります。
腫瘍があったからいきなり手術で取るというわけでなく、細胞診(FNA)やエコー検査などを行い、腫瘍の仮診断を行い、進行度を把握する必要があります。
検査結果により治療方針が全く変わってくる可能性があります。
その子に応じて必要な検査、治療方針を提案しますので、よく相談したうえで納得のいく治療を行えればと思います。
一部術後の写真がありますので苦手な方はご遠慮ください。
乳腺腫瘍
乳腺沿いに腫瘤が発生した場合は、乳腺腫瘍の可能性があります。
特に、避妊手術をしていない雌で多く認められます。
犬では50%が悪性、猫では85%が悪性と報告されています。
診断
FNA(針穿刺吸引生検)(細胞診)では、他疾患の鑑別を行います。また、リンパ節への転移の確認も行います。
レントゲン検査では、肺への転移の有無を確認します。
確定診断は、手術により腫瘍を摘出後に病理学的検査により行います。
「炎症性乳癌」と言われるかなり予後の悪い、高悪性度の腫瘍が疑われる場合は、手術摘出前にトゥルーカットという方法で腫瘍を生検したり、FNAで採取した細胞を遺伝子検査に外注することもあります。

乳腺腫瘍

炎症性乳癌が疑われトゥルーカット生検
治療
基本的には手術による摘出が推奨されています。
摘出の方法も、腫瘤摘出、単一乳腺切除、区域切除、片側乳腺全摘出、両側乳腺全摘出と多くの方法がるので、その子の年齢や腫瘍の状況を総合的に判断して手術方法を検討します。
手術を行う場合は基本的には完治が目標となるので、遠隔転移が起きる前に手術を行う必要があります。
術後病理学的検査によりリンパ節転移が疑われる場合は、抗がん剤の併用が選択肢になります。
手術の困難な症例で、腫瘤の自壊が問題になる場合は、緩和的なケアも提案しますのでご相談ください。

片側乳腺全摘出術
予防
予防には避妊手術を若い時期に行うことが重要です。
犬では避妊手術を行う時期を、初回発情前に実施だと発生率が0.08%、初回発情後では8%、2回目発情後では26%に抑えられると報告されています。
猫では1歳以下で避妊手術を行えば、発生率を86%低下させられると報告されています。
避妊手術による予防医療が、大きな予防効果を示す病気の1つです。
脾臓腫瘍
脾臓腫瘍は定期健診のエコー検査で偶然見つかったり、腫瘤が破裂することで見つかることもあります。
腫瘍が破裂した場合は重度の貧血となり、急に虚脱状態になることもあるので早急に受診してください。
診断
エコー検査では、腫瘍の大きさ、数、転移などを確認します。画像診断により鑑別される腫瘍が絞り込めることもあります。
細胞診(FNA、針穿刺吸引生検)では、リンパ腫や肥満細胞腫の診断に有効です。
レントゲン検査では、肺への転移等を確認します。
犬の脾臓腫瘍は50%の確率で悪性です。その内の50%は「血管肉腫」と言われる非常に予後の悪い腫瘍です。
治療
リンパ腫や肥満細胞腫、組織球性肉腫等が疑われる場合は基本的には抗がん剤が選択肢になります。
その他の固形がんでは、手術により摘出します。
術後の病理検査で、血管肉腫と言われる予後の悪い腫瘍が疑われる場合は抗がん剤の併用が選択肢になります。
血腫や結節性過形成等の良性腫瘍は、手術により摘出できれば予後良好です。

脾臓摘出(多発性腫瘤)
肥満細胞腫
肥満細胞腫という名前から、よく飼い主さまに「太っているから出来たのですか?」と聞かれることが多いですが、肥満とは関係のない腫瘍になります。
肥満細胞は炎症時に活躍する細胞ですが、それが過剰に増殖すると腫瘍となります。
発生部位は皮膚に好発しますが、脾臓や消化器にも発生することがあります。
皮膚に発生する肥満細胞腫は、犬では悪性度の高いことが多く、猫では犬よりも悪性度の低いことが多いです。
診断
皮膚に発生する肥満細胞腫の最も特徴的な所見としては、腫瘤の大きさが大きくなったり小さくなったりすることがあります。
ダリエ兆候と言われる、腫瘍周囲の皮膚が急性に発赤を生じることもあります。
細胞診(FNA、針穿刺吸引生検)で診断がつけられることが多いです。今後の治療に大きく影響するので、リンパ節への転移の状況も確認します。
エコー検査では、好発転移部位である脾臓等への転移の確認をします。
肥満細胞腫は色々な形で皮膚のできものとして現れるので、常に注意が必要な腫瘍です。
しかし、細胞診により診断のつけやすい腫瘍なので、小さくても皮膚にできものを発見した場合は一度検査してみることをお勧めします。FNAは動物にほとんど負担がかからず簡単にできる検査なのでご安心ください。

肥満細胞腫

肥満細胞腫
どちらも同じ肥満細胞腫ですが、見た目が全く異なります。
肥満細胞腫は見た目で判断できるものではないので、細胞診の検査が重要です。

顆粒を多数持つ細胞であり、肥満細胞腫の特徴的な所見です。
細胞診
治療
皮膚に発生した肥満細胞腫の場合は、基本的には手術による摘出が推奨されています。
転移の有無が治療に影響するので、基本的にはリンパ節の摘出も同時に行います。
一般的な皮膚腫瘤とは異なり、肥満細胞腫の手術では広範囲に切除しなければなりません。
腫瘍辺縁に微細な転移が起きていることが多いので、それを取りきらないと術後に再発しやすくなるためです。
猫の場合は犬と異なり、状況に応じて最低限の切除でも十分な切除範囲なことが多いです。
術後に病理学的検査で、転移が認められる場合や、転移の起きる可能性が高い場合は、抗がん剤や分子標的薬の併用が選択肢になります。
手術で切除するだけでなく治療を総合的に考える必要がある腫瘍ですので、飼い主さまとよく相談したうえで納得した治療ができればと思います。

肥満細胞腫が疑われる場合は、下部は筋膜を含めた広範囲の切除が重要になります。
切除範囲の評価
骨腫瘍
腫瘍は全身の骨どこにでもできる可能性があります。
ここでは前肢と後肢に発生した腫瘍について記載します。
症状
初期はびっこを引く、腕が腫れてきたという症状が多いです。
進行している例では、来院時に病的骨折を起こしていることもあります。
診断
ある程度進行していると、触診でもかなり腫脹していることが触知されます。
レントゲン検査では、骨腫瘍に典型的な特徴を確認します。
サンバースト像、コッドマン三角などの骨膜反応がは、骨腫瘍の典型像です。
肺転移が多いので、肺への転移も確認します。
必要に応じて腫瘍やリンパ節へのFNA(針穿刺吸引生検)も考慮します。
犬の四肢の骨腫瘍の85%は、悪性度の高い骨肉腫と報告されています。

橈骨に発生した骨肉腫。
骨破壊や骨膜反応、関節をまたがないなどの特徴的な所見が見られます。
レントゲン
治療
四肢の腫瘍の場合は、進行するとかなり強い痛みが発生し、動物のQOLが著しく低下するので、断脚が推奨されています。
断脚のメリットとしては、断脚により根治の可能性や、根治が望めなくても抗がん剤との併用で、生存期間の延長が期待できます。そして一番重要なのが、骨腫瘍による痛みから動物を痛みから解放できます。
術前に歩行ができている犬猫は、断脚後も歩行できることがほとんどです。
大きな手術で心配になると思いますので、よく相談したうえで治療方針を決定していきましょう。
副腎腫瘍
副腎とは、左右腎臓の横にあるホルモンを産生する小さな臓器です。
猫ではまれな腫瘍ですが、犬では50%が悪性の腫瘍です。
診断
エコー検査で偶発的に腫瘍を発見することが多いです。
FNA(針穿刺吸引生検)が危険な臓器なため、腫瘤の大きさや、画像的な特徴、経過などから良性・悪性を予測します。
悪性腫瘍の場合は、血管内浸潤が見られることもあるので、エコーやCT検査で確認します。

エコー(正常の副腎)

副腎のサイズが正常と比べ大きくなっています。
副腎腫瘍

腫瘍が血管内にまで浸潤しています。
副腎腫瘍の血管内浸潤
治療
悪性腫瘍が疑われ転移がない場合は、基本的には手術が第一選択です。
副腎腫瘍は術中だけでなく、術後のリスクも高いので、術後の血栓対策や血圧、ホルモンの管理も重要となります。
完全切除で周術期を乗り越えられれば、予後は良いです。
肺腫瘍
症状
肺腫瘍は末期まで無症状のことが多いです。
末期になると、呼吸促迫や咳などの症状が認められます。
診断
胸部レントゲン検査で、肺腫瘍を確認します。
無症状で肺腫瘍が偶発的に発見されることが多いです。
CT検査では、病変の詳細な位置や転移を確認します。
また、同時にFNA(針穿刺吸引生検)可能な部位の腫瘍であれば、腫瘍の予測を行います。
FNAで組織球性肉腫が疑われる場合は、抗がん剤の適応となります。
治療
肺原発腫瘍で、転移がない孤立性であれば、手術での摘出が推奨されます。
手術手技は、肋骨の間から開胸し、病変部を肺葉切除行います。
手術後は酸素室で管理し、設置した胸腔ドレーンから浸出液を抜去します。
犬の肺腺癌では、転移がなく孤立性で分化した腫瘍であれば、手術により予後がよいです。

肺腫瘍(手術時)

切除後(肺腺癌)